Prologue
――スワルブ……愛しきスワルブよ、どこにおるのだ……。
耳に届くは幻聴か。
彼の者の身を切り裂かんとする悲痛な叫びが石造りの牢屋で反響する。
――おらぬ。どこにもおらぬ。愛しき我が娘……。
悲しい。
悲しい。
悲しい。
全身全霊をかけて唯一を求める渇望は癒されず沈んでいく。
一筋の希望すらない、絶望。
濁りのない、純然たる嘆き。
――っっおのれ! 呪ってやる! 呪ってやるううううっ!
シャリン、と四肢を縛る重く鈍い光沢を放つ枷が音を鳴らし、鮮やかな黄金色の瞳を持つ青年が、憎悪を超える狂気の雄叫びをあげて両手を掲げる。薄暗い闇に緩やかな波紋が広がり、突如炎が舞い上がった。
岩をも溶かす灼熱の炎。
崩れ落ちる数々の美しい建築物。
混乱する人の群れ。
それを呆然と眺める一人の王族に青年は目をつけた。
――見つけた。見つけたぞ。お前がスワルブを……!
青年は老人のようにしがわれた声で高笑いをした。
――はっはは、はは……はははハハハハハハハアハハハハハヒハハハハハハハッ! 我が呪いは決して解けぬ未来永劫果てしない地獄。死ぬことを許されず成長と退行を繰り返す。子を為すこと与えられずその身の内を流れる血すら呪い、子を宿した女は耐え切れずして死ぬ! 許されざる大罪を犯したお前に相応しいっ!
赤のグラレーションが広がり、呼吸すらままならない圧倒的な熱気が襲い――その王族はあまりの激痛に我を忘れ叫んだ。
青年の愉悦に満ちた笑い声と王族の魂の奥底からあげる悲鳴は、王宮を焼き尽くす炎の勢いに呑み込まれた。
これらの出来事は数世紀前に遡るある王国の古い記録。
意図的に隠匿された歴史の一部分。
物語は彼の時より数百年を経て、ここより遥か遠く別次元にいる一人の少女よりはじまる。